vol.98 世界侵略のススメ

 今回の物騒なタイトルですが、映画の邦題です。原題は"Where to invade next"でマイケル・ムーア監督の去年?2015年?の作品です。本当は同監督の"Sicko"という作品が観たくて動画配信サイトで探したのですが、無料でなかったので偶然見つけたこちらを観ることにしました。
先に結論ですが、これはオススメです!本当に見てよかった。最近アメリカの医療制度が嫌になって色々な制度など調べていたのですが、たまたま観たこちらの作品で、国が変われば各分野の制度はかなり変わると改めて気づかされました。そういう視点もあるのかと目から鱗、ヘーえ、ととても勉強になりました。

あらすじはざっくりいうとマイケル・ムーアがヨーロッパ諸国などを周り、各国の様々な制度を目の当たりにし、アメリカでもそれを真似するべきだとアイディアを“略奪”していきます。

私はおそらくマイケル・ムーアの作品をちゃんと観るのはこれが初めてだったと思います。ドキュメンタリーですが、コメディタッチで笑いもあり、観やすかったです。



この日本語の予告編、侵略のイメージを押し出しすぎで好きではないのですが、本編はもっと静かな印象です。

以下ネタバレ含みます↓(知りたくない方は読まないでください。)アメリカ在住の日本人としての観点から私の個人的感想を語ります。




バカンスの国イタリア

まず“侵略”されたのはイタリア。
有給が年に8週間あるらしいです。ここは是非日本社会に真似してほしいところだと思いました。うちの夫は年に30日ほど有給があるので、日本に長期帰国したりすると周りは「そんなに長く休めるの」と羨ましがっていました。アメリカでは割とみんなバケーションなど行くイメージだったのですが、法律で保障されているわけではなく職場によるのだということを知りました。こまごまとしょっ中取る人もいれば、うちの夫の様に海外に行くなどの場合は貯めて使ったり、という具合です。


グルメなおフランス

フランスでの給食の豪華さにはびっくりしました。小学生のうちからレストラン並みのコースのランチを学校で食べるとは、さすがグルメの国です。みんな水をたくさん飲むということが強調されていて、マイケル・ムーアが勧めるコーラに興味を示さない子供達の態度が面白かったです。うちの息子なら喜んで飛びつきます。(典型的アメリカの粗悪食生活を送っています。)
しかし給食なら日本も負けていないと思いました。給仕は生徒がやるし、最近では食育も進んでいるらしいし、私は栄養も考えられた美味しい小学校の給食が懐かしいです。ただ、毎食の牛乳はやめて、フランスのように水にするべきと思います。
アメリカの食事は本当にひどいので、フランスまでとは言わないけど食育をもうちょっと取り入れて欲しいと切に思います。


先進ドイツ

ドイツといえばかなり先進なイメージで、誰もが知っているかと思います。労働時間の短さや、福祉、なんとなくは知っていましたが厳しい法律で決まっているそう。例えば社員が休暇中は、上司は電話やメールで連絡していけはいけない。はたまた医者にストレスが溜まっていると診断されれば、スパで療養できるという処方箋も書いてもらえるそう。
そしてこの厚待遇よりも感心したのが、ホロコーストなど第二次世界大戦中の国としての過ちを今の世代の子供達にも教育しているということです。そして移民も多いドイツですが、インタビューで一人の移民の生徒が「自分はドイツ国籍なので、こういった歴史も自国の過ちとして受け入れる」というようなことを言っていたのが印象的でした。他国からの移民を受け入れ、彼らを意識の高い国民を育て、次世代に過ちを起こさせないことも政府の役目であることを目の当たりにさせられました。


フィンランドの学校

これは何か別の番組か何かで見たことがあり知っていました。私は特に教育方針などないですが、見たときに息子がフィンランドの学校に通えたらいいのになとぼやっと思っていました。
学習時間は短く、宿題もほとんどないのに学力は高いフィンランドの学校。勉強よりも子供らしく遊ばせる、家族との時間を大事にさせるという方針で成功した模様。
最近ちょうどニュースで、韓国では受験戦争の影響で学習開始年齢がどんどん低化して遊ぶ時間がない、というのを聞いたところです。(確か3歳とかだった気が?)これでは子供に与えるストレスはすごいでしょう。
子供のうちは遊ぶのが仕事だし、勉強は小学校から始めればいいというのを聞いたことあるので、頭でっかちになるよりも遊びや生活の中から学んでいければいいのかなと個人的には思います。


スロバキアでなくスロベニア

大学は無料で、アメリカから来ている学生もいてインタビューがありました。英語で学べるコースもあり、将来もし我が家に余裕がなかったら息子用にオプションとして覚えておこうと思いました。(ただ調べてみたら海外の学生は学費を払わなければいけないというのも読みました。それでも断然安い!)



ノルウェーの刑務所

これも以前聞いたことがあり、北欧は進んでいるなあと思ったものです。
アメリカで犯罪を犯すと選挙権を失ったり、性犯罪の場合ずっとリストに載ったり、再犯が多かったり、更生があまりなされていない印象です。しかもマイケル・ムーアのインタビューでもちらっとありましたが、アメリカの刑務所に入るのの何が怖いかというと、他の囚人に襲われたりレイプされたりするということです。特に幼い子供を殺した、性犯罪者などは他の囚人などから酷い扱いを受け、刑期自体よりも辛いようです。
それに比べてノルウェーでの囚人は人権はもちろんのこと、待遇も刑務所とは思えないほどいい生活です。唯一の罰は家族や友人とは会えないのでそれが辛いとのこと。それ以外は良い隣人となるよう更生に努めるそうです。

被害者の父親のインタビューが印象的でした。息子を亡くしているのにとても寛容だと思いました。彼の言っていることは正しいし、人間そうであるのが理想だとはわかっていても自分だったらそこまで寛容になれるだろうかと思いました。
“目には目を”ではなく、負の連鎖を断ち切ることが重要なのですね。

そこで対して映るアメリカでの囚人の扱いの映像が酷いのです。この映画ではアメリカの黒人奴隷の歴史も触れているので、意図的に差し入れたのでしょうが、特に黒人囚人に対する看守の人とも思わぬ非道な仕打ちには目を覆いたくなるほどでした。
アメリカは元々はキリスト教の国であるのに、赦しの精神よりは“悪は叩きのめす”という横暴さを感じます。よく言えば正義は絶対という感じでしょうか。
日本人の私からしたら、刑務所で他囚人がレイプしたりするのは、人権侵害だしありえない、囚人が自分のうさを晴らすだけのためにやっているとしか思えませんが、うちのアメリカ人の夫はそれは別に違和感を感じないとのこと。ハリウッド映画、アメコミのヒーローなどうちの息子も大好きですが、こちらでは大人も好きでよく見ています。こういうのを見て育つとシンプルな「悪人は悪い、倒されて当然」という意識が根付くのでしょうか。実際の世界ではもっと複雑な背景もあり、犯罪者が生まれたりテロが生まれたりするのに、そんな単純な公式で人を断罪したり、またはそれが冤罪だったりするかもしれないし、更生の余地も与えないというのは私は先進国としてどうなのかなと思います。



ポルトガルは麻薬所持・使用は逮捕されない

ここまで見て来て思ったのはパラドックスです。人間抑えつけられればられるほど、やりたくなるものです。
麻薬を合法にしたり、刑務所で罰を与えるのを止める、学校での勉強時間を減らす。一見矛盾しているかのように見えますが、むしろ緩くすることで、効果を発揮するんだなと思いました。実際ポルトガルでの麻薬関連犯罪は減ったようです。
まさにパラドックス。すぐに真似をするのは難しいかとは思いますが、こういった発想の転換は何においても必要だなと思いました。



意外にも驚いたのはチュニジアです

北アフリカのイスラム教の国ですが、政府運営の婦人科の病院があり堕胎や避妊具が無料でもらえるとのこと。そして男女平等法もあり、議会の女性進出もかなり進んでいるようです。イスラム教は堕胎はいいのか調べたら、妊娠後120日までは生命が宿っていないという認識みたいです。色々な考えがあり興味深いですね。
このチュニジアでの女性ジャーナリストのインタビューが印象的でした。
『アメリカは世界一強い国で、アメリカの人たちは幸運です。しかし世界一であることが他国に興味を示さなくなっている。私はアメリカのことはよく知ってるし、文化やポップカルチャーも身近なものだけど、彼らはチュニジア、もしくは他の遠い国のことは知らないでしょう。』
というようなことでした。まさに私がアメリカ人に対して思っていることを代弁してくれたかと思いました。




深く触れていない国もありますが、私の思うところはざっとこんな感じです。
もちろん、これらの素晴らしい制度が全部実現された夢のような国はないと思います。どこかが良ければどこかにしわ寄せがあるのかもしれないし、平均を求めればアメリカン・ドリームのように突出するのは難しい社会構図になっているのかもしれません。税金が高すぎて嫌だと、その国を出る人がいるのも確かでしょう。


しかし正直これを見た後、アメリカに住んでいるのが嫌になりました。こちらでは医療も教育もビジネスで、学校の給食も刑務所での扱いも酷い、アメリカでの人間の扱いってなんだろうって思いました。お金持ちであれば住みやすい国なのでしょう、そしてアメリカン・ドリームというのも未だにあり、希望を求め移民先としては人気かもしれません。しかし長い目で見ると希望がない国のように思えてしまいました。



私はこちらであまりテレビを見ないのですが(うちはケーブルも払っていないのでもっぱらネットです。)、あまり海外のカルチャーなどを紹介する番組って見たことないなと思いました。日本では、世界まる見えやなるほどザ・ワールドなど(古い)あったなあと思い出したし、ここがヘンだよ日本人など世界と日本を比べたりする番組もありました。アメリカ人は自国を世界一素晴らしい国だと言っている人が多く、その分外に向ける意識が薄いと思います。海外旅行に行く人は周りで半分いるかいないか?という印象です(出張など旅行以外の目的を除く)。そもそもアメリカ自体が広い!そして世界一の国に住んでいれば他に興味を持つ必要はない、という考えですね。

日本でも最近は海外に行ったことがない人の方が珍しいかと思いますが、外に出ることで日本のいいところや悪いところを客観的に見ることができるし、もっと出た方がいいと思います。


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